包丁の刃に使われる鋼材にはいろいろな種類があります。
その1つが「粉末ハイス鋼」。
包丁の鋼材として非常にランクの高い鋼材です。
実はもともとハイス鋼は包丁の刃として不向きだったんですが、とある製法を使うことで弱点を克服しました。
それが粉末ハイス鋼というわけです。
ここではそんな粉末ハイス鋼の特徴を詳しく見ていきたいと思います。
包丁選びの参考にしてみてください。
「溶解ハイス鋼」と「粉末ハイス鋼」
まず基礎知識として、ハイス鋼の製法には「溶解ハイス」と「粉末ハイス」の2種類があります。
この製法の違いによって、同じハイス鋼でも鋼材としての特徴も変わってくるんです。
一般的にハイス鋼と呼ばれるものは溶解ハイスのことを指します。
溶解ハイスは、原料を熱で溶かしたあと圧延することにより出来上がります。
ちなみに、これがごく一般的な金属加工法です。
粉末冶金法
一方、粉末ハイスの製法はちょっと特徴的。
まずは原料を一度溶かし、粉末状にします。
これを型に入れて、熱と圧力を与えながら焼き固めて完成するのが粉末ハイス鋼です。
この製法は粉末冶金法と呼ばれ、溶解ハイスより質の高いハイス鋼が作れるといわれています。
ここからは2つの特徴をより詳しく見ていきたいと思います。
溶解ハイスは包丁の素材には不向き?
まずは通常の「溶解ハイス鋼」から。
ハイス鋼はとても硬質な素材として知られています。
その硬度は、数ある鋼材の中でも最高峰のランクだと思ってもらって構いません。
そんな硬度の高いハイス鋼を包丁の刃に使うと、果たしてどんな効果が期待できるのでしょうか?
硬度が高いから包丁の切れ味が持続しやすい
まず、鋼材の硬度が高いと包丁の切れ味が持続しやすくなります。
硬度が高いというのは頑丈だということ。
つまり、食材を切っていても刃が傷つきにくいということです。
高度が高いほど丈夫で長持ちする包丁だと思ってもらって構いません。
包丁選びの際の1つのチェックポイントですね。
組織が粗く包丁の刃としては不向きだった
とはいえ、硬度が高いだけで包丁の刃に向いているとは限りません。
実は、溶解ハイス鋼は組織の粒度が粗いんですよ。
先ほどハイス鋼は切れ味が持続しやすいといいましたが、それはあくまで持続性の話であって…。
組織の粗い溶解ハイス鋼で包丁を作っても、切れ味そのものは良くなりません。
極端に言えば、
- 組織の粗い鋼材を使った包丁・・・切り口がザラザラで上手く切れない
- 組織のきめ細かい鋼材を使った包丁・・・スパッと食材を切れる
といった感じ。
繊細な切り口を求められる包丁においては致命的ですね。
これが包丁に不向きな最大の理由です。
ちなみにこの溶解ハイス鋼は工具に使われることがほとんどなんですよ。
そう聞くとやっぱり、「食材を切るには不向きな素材なんだなー」って思いますよね(笑)
粉末ハイス鋼の包丁は通常のハイス鋼と違って切れ味が良い
それではいよいよ「粉末ハイス鋼」の特徴を見ていきましょう。
もちろん硬度はそのままに
硬度は通常のハイス鋼同様に抜群です。
製法が違うものの硬度はそのままなので、もちろん切れ味の持続性も高いということになりますね。
むしろ、粉末冶金法によって硬度がより高くなったともいわれているくらい。
原料を溶かし粉末状にしてから焼き固めることで、より緻密で硬度の高い鋼材に仕上がるんです。
粉末冶金法により組織がきめ細かくなった
そして大きく変わったのが組織のきめ細かさです。
粉末冶金法により組織の粒度がとてもきめ細かくなりました。
つまり、通常のハイス鋼の弱点だった”包丁としての切れ味の悪さ”を改善したということです。
もともとの硬度と相まって、包丁に使われる鋼材としての地位を確立しました。
少し遠回りをしての紹介となりましたが、とにかく粉末ハイス鋼を使った包丁は高品質な包丁ですよって話です。
丈夫な包丁なので、1本の包丁を長く使いたいという人にはおすすめですね。
硬度の高いハイス鋼の包丁は研ぎにくい?
最後にちょっとおまけの知識を。
硬度の高い包丁は頑丈で切れ味の持続性も高いので、包丁のランク的にも当然高価な部類に入ります。
こう聞くと良いことしかないように感じますが、実は小さな弱点もあるんです。
それは包丁の研ぎやすさ。
硬度が高い包丁は研ぐのが難しいんですよ。硬いんですから当然ですよね。
荒い砥石を使えばさほど問題ではないと思いますが、包丁研ぎ初心者のうちは少し苦労するかもしれません。
このあたりの話は、炭素鋼の規格を紹介した記事でも軽く触れています。
硬度、靭性、耐摩耗性など、すべての数値が高ければ良いという話でもありませんからね…。
それぞれに合う包丁があるんです。
興味があればご覧ください。
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